*パ・リーグ関係者の話をもとに、海外アマチュア選手の獲得の現状についてまとめました。
3月15日から東京ドームで開催された阪神タイガースと読売ジャイアンツによるシカゴ・カブスおよびロサンゼルス・ドジャースとの交流試合が満員御礼となったのは、少なくとも東京ドームでMLB開幕戦を主催する読売新聞が、日本のプロ野球がMLBと競争することはないという現実を受け入れた証拠だ。
カブスとドジャースの2連戦で幕を閉じた今回のシリーズは、まるで徳川幕府がペリー提督の黒船来航を歓迎し、さらにその功績を称えるパレードのチケットまで販売したかのような、象徴的な「降伏」とも言える。
ファンにとって、今回の試合の魅力は否定できない。史上最高の選手とも称される大谷翔平を含む5人の日本人スター選手は、日本が生み出すことのできる高いレベルの野球を象徴している。しかし一方で、彼らが外国の強豪野球リーグの「帰還した英雄」として迎えられることは、日本のプロ野球がメジャーリーグに対して「二流」の地位に甘んじている現状を浮き彫りにしている。
誤解しないでほしい。日本のプロ野球は非常にレベルが高く、厳しく、そしてエンターテインメント性に富んでいる。間違いなく質の高いスポーツだ。しかし、運営側はその向上に対してほとんど関心を持っていない。
現在のNPBの姿勢は、”最高の野球リーグを作りたい。” が、1円たりとも余計に投資するつもりはない。だから、日本の一流の選手がMLBに流出してしまっても仕方がないのが現状である。
■歴史的背景
NPBの基本的なビジネスモデルは、まるでアメリカの初期の「連合規約(Articles of Confederation)」のように、全体の利益よりも、最も力を持つ球団の意向が優先される構造になっている。
読売ジャイアンツは、創設当初からこの仕組みを利用し、日本のプロ野球ビジネスを「徳川幕府」のような体制へと変えていった。徳川家康が1600年の関ヶ原の戦いでライバルを打ち破り、日本の封建制度を固定化させたように、読売も日本のプロ野球を「支配」する形で成長した。
約250年間、徳川幕府は「分割統治」を行い、他の大名の力を抑えながら、日本国内の秩序を維持した。しかし、この鎖国政策が19世紀半ばに欧米列強の圧力を受け、日本が技術的に大きく遅れを取る原因となったのは歴史が証明している。
同様に、読売ジャイアンツは長年にわたり、プロ野球全体の成長を妨げるようなルールや政策を推進してきた。例えば、各球団が自チームのホームゲームの放映権やグッズ収益を独占できるようにすることで、NPB全体での放映権ビジネスやライセンス契約の拡大を阻害した。また、NPB創設から40年間にわたる慢性的な球場不足の影響で、多くの球団は「球場の借り手」とならざるを得ず、本拠地の使用料として固定の年間費用を支払うだけでなく、チケット収入の一部を手放し、さらに広告収入や飲食販売による収益も得られない状況に置かれた。
こうした構造が定着した結果、NPBの球団経営は「各球団の親会社のブランド宣伝」が主目的となり、球団そのものの利益を追求しない経営モデルが主流となった。
■ NPBがMLBに遅れを取る理由
1995年にボビー・バレンタイン監督は、日本のプロ野球がMLBに比べて選手育成や競争力の面でなぜ遅れているのかを議論してきた。
日本の野球熱はキューバやドミニカ共和国と並ぶほど強い。また、日本の経済力やインフラの充実度を考えれば、本来なら世界最高の野球リーグを作れるはずだ。しかし、それが実現しないのはなぜか?
その答えの一つは、NPBがMLBのやり方を学ぼうとしないからだ。MLBはスタジアム建設に関する契約交渉において極めて陰険である。一部のNPB球団、特に日本ハムファイターズだけがこの手法を取り入れ始めている。
さらに、アマチュア選手の獲得においても、MLBは各球団の契約金額を制限するアマチュア契約金制度の「サイニングボーナスプール」を導入しているが、NPB球団は海外から来た選手に対してのみこのルールを活用しようとしない。2019年ソフトバンクホークスはMLBドラフト1巡目指名のカーター・スチュワート・ジュニア投手と6年600万ドル(当時約6.5億円)の契約を結び、NPBのルールの隙を突いたのはその代表的な例である。
そのルートを最大限に活用するには、日本のチームがコーチングのノウハウと育成インフラを強化する必要があるが、その意欲があるかどうかは別の話である。
日本の球団は海外のアマチュア選手を獲得するために莫大な資金が必要なわけではない。現在も巨人やホークスはドミニカ共和国のアマチュア選手を獲得しており、パ・リーグの関係者によれば、日本ハム、楽天イーグルス、オリックス・バファローズも台湾のアマチュア選手と契約を結び始めているようだ。
それでも、NPBとMLBのルールの隙間を突こうとするチームはごくわずかであり、それは主にパ・リーグの球団である。
■読売新聞の巧妙な手法
しかし、今回のMLB開幕ツアーに関して言えば、少なくとも読売新聞のスポーツ事業部は、アメリカと日本のやり方の違いを巧みに利用し、利益を生み出す方法を熟知していることを示した。
過去25年間、読売新聞はMLBの日本市場における主要なプロモーションパートナーを務め、今回のMLB開幕戦では日本メディアの取材パスの管理も担当した。通常、日本の野球のビッグイベントでは、グラウンド内で取材できる記者の数が制限されている。しかし、MLBやWBC(日本開催以外)にはこうしたルールは存在しない。
そこで読売新聞は、グラウンド内取材パスを得ることができなかったメディア向けに「インタビューシート」と呼ばれる座席を販売した。彼らは、試合写真を撮るためにこのシートを購入せざるを得なくなった。その価格は、カブスのオープン戦2試合で36,000円(約250ドル)、ドジャースのオープン戦2試合で48,000円、MLB公式戦2試合では90,000円という強気な設定だった。
これは見事なビジネス戦略と言えるだろう。
■日本のプロ野球が取るべき道
結局のところ、NPBのオーナーたちが「世界最高の野球リーグ」を目指して投資をすれば、MLBは「もう一つのメジャーリーグ」という位置づけになるはずだ。しかし、それには多額のコストがかかるため大半のオーナーはその道を選ばない。
2004年にホークスを買収した孫正義オーナーは、「世界最強の球団を作る」という夢を掲げている。これは、かつて巨人を創設した正力松太郎の理想と重なる。
しかし、長年にわたる読売主導の「現状維持」の方針の結果、NPBはMLBと競争するどころか、その差を広げる一方だ。そして、今回のMLBツアーの成功も、読売がその格差を利用して利益を上げていることを示している。
つまり、”ビジネス取引はフィールドの外で起きているのだ。